2026年6月4日、シカゴ・カブスの今永昇太(いまなが・しょうた)は1試合で4本の本塁打を打たれた。メジャー移籍後の自己ワーストである。翌5日、本人は「3巡目を抑えるパターンをつくり出さなきゃいけない」と語った(ニッカンスポーツ、2026年6月5日)。
打たれる理由を本人が口にしたのは、これが初めてではない。9か月前の2025年9月にも、MLB.comの取材に対して、フォーシームを見直す必要があり、調整を続けていくという趣旨の発言をしている(ジョーダン・バスティアン記者の記事、2025年9月19〜20日。英語での取材のため、発言は要約にとどめる)。
先に本稿の結論を述べる。二つの発言は、どちらも口にした時点の数字に合っている。2025年のフォーシームはたしかに被本塁打の大半を占めていたし、2026年6月の時点では、3巡目でたしかに打ち込まれていた。ただ、打たれ方は3年間動き続けてきた。被本塁打の中心はすでにフォーシームを離れ、3巡目の打ち込まれ方も5月18日からの4先発に集中している。2024年から2026年までの3年間、一年として同じ打たれ方をした年はない。投手の調整と打者の対応が繰り返されるメジャーでは、それ自体は珍しいことではない。本稿は独自集計のデータでこの3年を読み直し、いま起きている崩れの中身を解きほぐす。
数字の前提
対象はレギュラーシーズンの2024〜2026年で、データは2026年6月8日の試合までである。2026年は13先発時点の途中経過であり、今季の数字に確定値はない。
2026年は二つの期間に分けて扱う。期間Aは開幕からの9先発(3月29日〜5月13日、211打者)、期間Bは続く4先発(5月18日〜6月4日、97打者)である。当時の報道と本人の発言が指す「ここ4試合」に合わせた分け方だが、成績が崩れたところを境に、後から区切ったものであることは、先に断っておきたい。崩れた期間だけを切り出せば、その間の率は実力以上に極端に見える。期間Bのような数字は、対戦を重ねれば平均的な水準に近づいていくのが普通である(いわゆる平均への回帰)。したがってAとBの対比は仮説の検証ではなく、あくまで現状整理として読まれたい。後述する2025年終盤の崩れ(8月28日以降の最後の6先発)も、同じ性質の区切りである。
崩れは今回が初めてではない
29先発、25先発、13先発
登板ごとの被本塁打と失点の推移(2024〜2026年)
2024年(29先発)
2025年(25先発)
2026年(13先発・途中経過)
期間A=2026年第1〜9先発(3月29日〜5月13日)、期間B=続く4先発(第10〜13先発、5月18日〜6月4日)。結果を見たうえでの事後的な区切りで、期間Bの率は極端に見えやすい
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
| 期間 | 投球回 | 防御率 | 被本塁打 |
|---|---|---|---|
| 2026年 第1〜9先発(期間A) | 54回1/3 | 2.32 | 5 |
| 2026年 第10〜13先発(期間B) | 21回2/3 | 10.80 | 12 |
| 2025年 第20〜25先発(終盤の6先発) | 34回2/3 | 5.97 | 12 |
期間Aの好調は、結果だけのものではなかった。ここで使う加重出塁率(wOBA: 出塁の種類ごとに価値の重みをつけた、総合的な打撃指標。高いほど良い。)は、単打・長打・四球などの結果に重みを付けて1打席あたりにまとめた総合指標である。出塁率と同じ形式で、投手側は「被wOBA」と呼び、低いほど良い(Statcastの係数による一般的な指標であり、独自指標ではない)。期間Aの被wOBAは.250。打球速度と打球角から見込まれる期待加重出塁率(xwOBA(打球時): バットに当てた打球の質から「本来期待される打撃成績」を推定した指標(打球時のみ)。。三振・四球は実績どおり)も.273で、内容が伴っていた。
そこからの4先発で、防御率10.80・被本塁打12。4先発というごく小さい標本であることを差し引いても、急な変わり方である。そして、似た崩れは2025年の終盤にもあった。8月28日以降の6先発で防御率5.97・被本塁打12。ただし2025年は、終盤まで無傷だったわけでもない。中盤にも1試合3被本塁打の試合が複数あり、「好調のまま最後だけ崩れた」という単純な図式は実態に合わない。
出発点の2024年
メジャー1年目の2024年は、173回1/3を投げて防御率2.91。投球回100以上の先発120人中10位に入る(順位は独自運用の先発プールに基づくもので、公式の規定投球回とは別である。より広い213人のプールでは16位)。被wOBA .293はリーグの先発平均.322を下回り(対戦694打席)、xwOBA .289も213人中24位。奪三振率(対戦打者あたりの三振の割合)25.1%、四球率4.0%。申し分のない1年だった。
この年からすでに、今永の被打球には一つの目立つ特徴が表れている。フライが非常に多いのである。フライ率(被打球に占めるフライの割合。ポップフライは別扱い)は、先発のなかで最上位級だった。フライの多い投手は本塁打のリスクと隣り合わせのはずだが、2024年は、フライあたり本塁打率(フライのうち本塁打になった割合)が14.9%と、プールの平均よりむしろ低かった。フライは多いのに、外野席までは届かない。これが2024年の姿である。
フライは毎年多い。スタンドに入るかどうかは年による
フライ率とフライあたり本塁打率、先発投手のなかでの立ち位置(年別)
2024年
フライ率は最上位級なのに、フライあたり本塁打率14.9%は先発平均以下
2025年
2026年(途中経過)
参考: 5月18日からの4先発だけなら44.4%(フライ27本中12本)。先発投手の分布から外れた値
プールには打球数の下限がある(2024〜25年は150打球、2026年は80打球)
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
防御率はそこから、2.91(2024年)、3.73(2025年。222人中77位と中位)、4.74(2026年・途中経過)と推移してきた。2025年は、被wOBA .296と打たれた中身は良いままで防御率だけが悪化した年であり、xwOBA .313は結果より悪かった。この食い違いの原因をデータから特定することはできないため、ここでは事実の指摘にとどめる。
一度目の自己分析はフォーシーム
2025年9月19日の時点で、被本塁打29本のうち22本がフォーシームだった(独自集計の値。MLB.comの記事は、本塁打の大半が速球によるものだと伝えている。その後さらに2本を許し、シーズン最終では31本中24本)。本人がフォーシームの見直しに触れたのは、まさにこの状況でのことである。この年のフォーシームは投球の48.7%を占め、被本塁打では77%を占めた。被打球あたりの本塁打率は0.115で、リーグのフォーシーム平均0.055の約2.1倍にあたる(対象209打球)。しかも、偏りは2025年に始まったものではない。2024年も27本中22本(81%)がフォーシームで、0.083対リーグ平均0.053だった(対象265打球)。球種ごとの率はこの規模の打球数ではぶれるが、リーグとの開きは2年続けて大きい。見立ては、口にした時点の実態に合っていた。
本塁打はどの球種から出たか
球種別の投球割合と被本塁打(2024〜2026年)
2024年
27本中22本がフォーシーム
2025年
31本中24本がフォーシーム(9月19日時点では29本中22本)
2026年(途中経過)
17本が4球種に分散(フォーシーム6・スプリット6・スイーパー3・シンカー2)
2026年は球種ごとの打球が19〜83打球と少なく、各球種の率はあくまで暫定値である
棒は投球割合1%以上の球種のみ。2024年は表示外のカッターからも1本(投球割合0.5%)が出ており、注釈の27本にはこれを含む
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
ところが2026年、その偏りは消える。ここまでの被本塁打17本の内訳は、フォーシーム6・スプリット6・スイーパー3・シンカー2と4球種に分散した。フォーシームの投球割合自体も、51.9%(2024年)、48.7%(2025年)、41.3%(2026年)と下がってきている。今季、リーグ平均との開きが大きいのはむしろスプリットで、被打球あたり本塁打率0.072はリーグのスプリット平均0.032の約2.3倍(対象83打球)。フォーシームは0.076(対象79打球)、スイーパーの0.158は19打球の参考値にすぎない。2026年の球種別の数字はいずれも対象打球が19〜83と少なく、率はあくまでおおまかな目安として読むべきである。それでも、2026年の被本塁打の中心が、もうフォーシームにないことは確かである。
二度目の自己分析は3巡目
では「3巡目」はどうか。巡目: その試合で、同じ打者と何度目の対戦かを表す数え方。とは、同じ打者とその試合で何度目の対戦かを指す(3巡目は3度目以降を含む)。2026年シーズン全体の3巡目は被wOBA .491(74打席・被本塁打8)。これだけ見れば、本人の言葉を裏づける数字である。
しかし、期間を分けると見え方が変わる。期間Aの3巡目は.376(49打席・2本)。リーグの先発の3巡目平均.335をやや上回るものの、この打席数では誤差の範囲である。一方、期間Bの3巡目は.716(25打席・6本)。さらに言えば、期間Bは3巡目に限らず、1巡目から打たれている。1巡目36打席で本塁打4本。1打席あたりの被本塁打率.111は、リーグの1巡目のおよそ3倍にあたる。期間Aの1巡目・2巡目がリーグ平均より良かったことも含め、数字は図に示した。
「3巡目」を期間別に見る
打順の巡目ごとの被加重出塁率(wOBA)。期間Aと期間Bの比較、リーグ先発平均との対比
シーズン3巡目 .491(74打席)。内訳は期間A .376(49打席)、期間B .716(25打席)
期間Bは1巡目から打たれている(36打席で本塁打4)
期間Aの3巡目とリーグ先発平均(.335)の差は、小標本の誤差の範囲
期間Bの巡目別は25〜36打席で、安定とされる規模に遠い
加重出塁率(wOBA)はStatcastの係数による
期間A=2026年第1〜9先発(3月29日〜5月13日)、期間B=続く4先発(第10〜13先発、5月18日〜6月4日)。結果を見たうえでの事後的な区切りで、期間Bの率は極端に見えやすい
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
期間Bの巡目別の数字はどれも25〜36打席にすぎず、一般に安定するとされる規模には遠い。それでも構図ははっきりしている。「3巡目」は、シーズンを通じた今永の弱点ではなく、期間Bの崩れの一断面である。崩れた期間中は、巡目を問わず打たれている。
巡目の数字を年ごとに並べると、このことはさらに分かりやすい。2025年の本塁打は、むしろ1巡目に集中していた。31本中18本が1巡目で、内訳は初回9本・2回6本。1打席あたりの被本塁打率.080は、リーグの1巡目の約2.5倍である。その2025年の3巡目は被wOBA .271(120打席)で、その年最も良い巡目だった。2024年は.250、.283、.372と巡目を追って緩やかに悪化する、ごく普通の推移である。
何巡目に打たれているか
巡目別の被加重出塁率(wOBA)、リーグ先発平均との比較(2024〜2026年)
2024年
.250 → .283 → .372 の緩やかな悪化
2025年
1巡目で31本中18本(うち初回9本)
3巡目(.271)がこの年最も良い巡目
2026年(途中経過)
加重出塁率(wOBA)はStatcastの係数による(独自指標ではない)
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
ここまでを整理する。二つの自己分析は、いずれも口にした瞬間の実態に合っている。本人が自分の数字を正確に把握していることの証左でもある。そのうえで3年分の数字を並べると、被本塁打の中心は翌季にはフォーシームを離れ、3巡目の打ち込まれ方は期間Bの4先発に集中していた。発言はその時々の現在地を映すものである。投手と打者のせめぎ合いが続くかぎり、直面する課題は動いていく。今永の問題の中心は、年ごとに、ときには月ごとに移っている。
本人が口にしたことのない、毎年の特徴
打たれ方が毎年変わる一方で、3年間ほとんど変わっていないものもある。打者にボールの下を叩かせる投球である。
これを測るために、独自指標の「ミート位置の縦ずれ: バットがボールの中心からどれだけ下(+)または上(−)を叩いたかの推定値で、単位はcm。」(contact offset)を使う。バットがボールの中心からどれだけ下(+)または上(−)を叩いたかの推定値(単位はcm)で、打球の角度やバットの速さ、投球の軌道などから接触位置のずれを逆算する。独自モデルによる推定値であり、Statcastの実測ではない。この点は明記しておく。
今永の被打球の平均は、2024年1.04cm、2025年1.51cm、2026年1.03cm。先発プールの平均はおおむね0.66〜0.71cmで、3年ともはっきり平均を上回っている。ただし、一定ではない。突出していたのは2025年で(187人中7位)、「安定して高い」と言うより「毎年高いが、年によって程度が違う」と言うほうが正確である。フライ率も、3年とも先発の最上位級で推移している。なお、2026年の対象は200打球で、集計基準のちょうど下限にあたる。
毎年変わらないもの
ミート位置の縦ずれ(contact offset)とフライ率の推移(2024〜2026年)
ミート位置の縦ずれ(cm。+=打者がボールの中心より下を叩いた)
1.04 → 1.51 → 1.03cm。先発平均はおおむね0.66〜0.71cm
2025年が突出(187人中7位・96パーセンタイル)。毎年高いが、一定ではない
フライ率(%)
フライ率は毎年先発上位(93→99→93パーセンタイル)
ミート位置の縦ずれは独自モデルによる推定値で、Statcastの実測ではない。2026年は200打球(集計基準の下限)
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
球種別に見ると、この傾向をつくっているのはフォーシームである。フォーシームの被ミート縦ずれは+2.18、+2.28、+1.91cm(年順)と、リーグのフォーシーム平均+1.52〜1.60cmを3年続けて上回る。逆にスプリットはほぼゼロ、つまり芯の近くで打たれる球である。
どの球種で「下を叩かせて」いるか
球種別のミート位置の縦ずれ、リーグの同じ球種との比較
フォーシーム +2.18/+2.28/+1.91cm(2024→2026年)。リーグの同球種は+1.52〜1.60cm
スプリットはほぼゼロ(芯の近くで打たれる球)
2024年
2025年
2026年(途中経過)
独自モデルによる推定値で、Statcastの実測ではない
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
この傾向は、フォーシームの球質から素直に説明できる。縦変化量とは、重力の影響を除いた、ボールが浮く(+)または落ちる(−)量である(単位はcm)。今永のフォーシームは45.7〜46.5cmで、先発のなかでも大きい部類に入る。一方で球速は146.1〜147.7km/h(90.8〜91.8マイル)と、先発では遅い部類である。そのホップ成分の大きい直球を、ゾーン上段(高め3分の1。ゾーンの上のボール球を含む)へ55〜59%の割合で集める。ホップ成分が大きく、球速は控えめで、高めに集まる。打者のバットがボールの下に入りやすい条件が、3年間そろい続けている。
なお、この特徴は、次節で見る崩れの説明にはならない。崩れの期間、ミート位置の縦ずれはむしろ減っているからである。
5月18日からの4先発で、何が変わったのか
では、期間Bで実際に何が変わったのか。先に、変わらなかったものから挙げる。
球質である。直球の平均球速は、期間Aの147.7km/h(91.8マイル)から期間Bは148.1km/h(92.0マイル)へ。この4先発は、むしろカブス入団後で最も速い。縦変化量は46.7cmから45.7cmで、どの球種でもほぼ横ばい。合わせて投球の76%を占める主力2球種を細かく見ても、フォーシームは回転数−8rpm・回転軸+1度・縦変化量−1.0cm、スプリットは回転数−6rpm・回転軸−4度・縦変化量−2.0cmと、意味のある変化はどこにもない。フォーシームの縦変化量がリーグの左腕平均より5.3〜6.4cm大きいことも、両期間で変わらない。なお、期間Bの回転数・回転軸には計測できていない球があり(計測値があるのはフォーシーム134球中95球、スプリット112球中97球、シンカー38球中20球。球速・変化量は全球が対象)、また回転効率は独自データから算出できないため、回転数と変化量は切り離して述べるにとどめ、効率には踏み込まない。
期間Aから期間Bへ。変わらなかったもの、変わったもの
球質(変わらず)
- フォーシームの平均球速 147.7 → 148.1km/h(91.8 → 92.0マイル)。この4先発はカブス入団後で最も速い
- 縦変化量 46.7 → 45.7cm(どの球種もほぼ横ばい)
コース・打者のスイング判断・結果(変わった)
期間Bは4先発・73打球。いずれもこの4先発に限った値であり、実力が変わったと断定できる差ではない
ハードヒット=打球速度 約153km/h(95マイル)以上
期間A=2026年第1〜9先発(3月29日〜5月13日)、期間B=続く4先発(第10〜13先発、5月18日〜6月4日)。結果を見たうえでの事後的な区切りで、期間Bの率は極端に見えやすい
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
ミート位置の縦ずれも、悪化していない。それどころか減っている。フォーシームは+2.08から+1.52cmへ、スプリットは+0.64から−0.08cm、つまりほぼゼロになった。スプリットが芯で捉えられるようになったこの期間に、崩れの12本中5本がスプリットから出ている(期間A全体では1本だった)。全体でも+1.24から+0.64cmへ低下した。打者がボールの下を叩かされる傾向はむしろ弱まり、より芯に近いところで捉えられるようになったのである。球種別の縦ずれは期間Bで5〜28打球と少なく(カーブとスイーパーは参考値)、大づかみの読みにとどまるが、傾向の向きとしてははっきりしている。
球質はほぼ変わらず、本塁打だけが増えた
球種別の回転数・縦変化量と、ミート位置の縦ずれ・被本塁打。期間Aと期間Bの比較
フォーシーム: 回転数−8rpm・縦変化量−1.0cm。スプリット: −6rpm・−2.0cm(主力2球種で投球の76%)
スプリットの縦ずれ +0.64 → −0.08cm(ほぼゼロ=芯で捉えられた)。崩れた期間の12本中5本がこのスプリット(期間Aでは1本)
回転数(rpm)
縦変化量(cm)
ミート位置の縦ずれ(cm)
回転数は計測値をそのまま示した。有効回転(回転効率)は算出できないため、回転効率には踏み込まない
期間Bの回転数・回転軸は一部の球で計測できていない(計測できたのはフォーシーム134球中95球、スプリット112球中97球、シンカー38球中20球。球速・変化量は全球)
球種別の縦ずれは期間Bで5〜28打球(カーブ1〜2球、スイーパー5球は参考値)
縦ずれは独自モデルによる推定値で、Statcastの実測ではない
期間A=2026年第1〜9先発(3月29日〜5月13日)、期間B=続く4先発(第10〜13先発、5月18日〜6月4日)。結果を見たうえでの事後的な区切りで、期間Bの率は極端に見えやすい
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
変わったのは、まずコースである。ゾーン内率(投球のうちストライクゾーン内の割合)は43.6%から51.8%へ、8.2ポイント上がった。甘いコース(真ん中高めとど真ん中。Statcastのゾーン2・5)は10.1%から13.9%へ。球種別では、二つの変化が重なる。一つは、スプリットが全体として以前より高めに入るようになったこと(ゾーン下端からの平均高さ+3.6→+6.5cm。下端より下に外れる割合は48.0%から37.5%へ減り、ゾーン内の割合は36.7%から45.5%へ増えた)。これは崩れの5本を出したスプリットのコースの変化であり、ボールゾーンに外れるスプリット自体は低めに沈んだままである(低め側の割合66.8%→65.6%)。もう一つは、今季から本格的に投げ始めたシンカーの割合が増えたこと(6.4%→11.4%)。そのコースは甘く(ゾーン内71%・ど真ん中13%。38球)、崩れの12本中2本を占める。
次に、相手打者の対応である。ボール球スイング率(ボールゾーンの投球のうち打者が振った割合)は39.7%から26.9%へ12.8ポイント下がり、空振り率(スイングあたり)は30.0%から23.9%へ落ちた。球種やコースの内訳をそろえて計算すると、低下の約9割は、同じようなボール球を打者が振らなくなった分である。ゾーンの縁から0〜7.6cmの際どい帯(独自の区分で、Savantのシャドーゾーンとは別)で59.1%から40.5%へ下がったのをはじめ、すべての距離帯、すべてのカウント状況、標本のある全球種で、同じ向きに下がった。今永の側のボールの外れ方は、ほぼ変わっていない(縁からの平均距離19.2→18.8cm、際どい帯の割合は23%で横ばい。寄与は約9%)。カウント構成の寄与も約2%にすぎない(初球ストライク率は56.9%→57.7%でほぼ不変)。ゾーン内スイング率は67.2%から69.8%へ上がったが、これ自体は誤差の規模である。打てる球は振り、外れる球は見送る。期間Bの打者の対応は、そう要約できる。
ボール球スイング率はどこで下がったか
ゾーンの縁からの距離帯別のボール球スイング率、期間Aと期間Bの比較
どの距離帯でも低下(際どい帯=0〜7.6cm: 59.1% → 40.5%)
外れ具合はほぼ同じ(縁からの平均距離 19.2 → 18.8cm)
低下の約9割は、同じようなボール球に対して打者が振らなくなった分
『際どい帯』(0〜7.6cm)は独自の区分で、Savantのシャドーゾーンとは別
期間Bのボール球は160球
距離帯ごとの差は単独では統計的に確かめられず、根拠は内訳をそろえた計算と、距離帯・カウント・球種のすべてで同じ向きに下がった事実
この4先発に限った現状整理であり、スカウティング上の定説として確立したものではない
期間A=2026年第1〜9先発(3月29日〜5月13日)、期間B=続く4先発(第10〜13先発、5月18日〜6月4日)。結果を見たうえでの事後的な区切りで、期間Bの率は極端に見えやすい
2026年は6月8日終了時点・13先発の途中経過
レギュラーシーズンのみ・独自集計
ただし、ここにも標本の限界がある。期間Bのボール球は160球で、距離帯・カウント・球種の一つ一つの区分は、単独では統計的に確かめられない。約9割という数字は、球種やコースの内訳をそろえた計算と、すべての切り口で同じ向きに下がったという事実に基づく。打者が対応したという読みは、この4先発に限った話であって、確立した傾向ではない。
最後に、当たりと結果である。ハードヒット率(打球速度 約153km/h・95マイル以上の打球の割合)は38.8%から46.6%へ上がり、xwOBAは.273から.391へ悪化した。一方、バレル級の割合(簡易の独自定義で、打球速度 約158km/h・98マイル以上かつ打球角26〜30度。Savantのバレルとは別物)は3.6%から4.1%と、ほぼ横ばいである。そのうえで、フライあたり本塁打率が11.4%から44.4%へ跳ね上がった(フライ27本中12本)。結果の被wOBA .470は、悪化した打球内容(xwOBA .391)から見込まれる水準より約80ポイントも悪い。崩れの12本の中身を見ても、甘い失投(ゾーン2・5)から出たのは4本だけで、低め3分の1から運ばれたものが4本ある。
繰り返すが、期間Bは4先発・被打球73である。ここに挙げた数字はすべて現時点の数字の整理であって、実力差の証明ではない。事後的に切り出した期間である以上、率は極端に見えやすい。そのうえで、「不運だった」の一言で片づけることもできない。ゾーン内率の上昇、ボール球スイング率の低下、ハードヒット率の悪化は実際に起きた変化であり、フライの44.4%が本塁打になるという結果の出方が、そこに追い打ちをかけた。実際の変化と不運の両方が重なって、防御率10.80という数字になっている。
問題の所在
データから言えることを、既出の数字でまとめる。
- ゾーン内率は8.2ポイント上がり、ボール球スイング率は12.8ポイント下がった。低下の約9割は、同じようなボール球に対する打者側の変化である。
- スプリットは従来より高めに入るようになり(ゾーン下端より下の割合48.0%→37.5%)、崩れの12本中5本を占める。
- 今季ほぼ新たに加わったシンカーは甘いコースに集まり(ゾーン内71%・ど真ん中13%、38球)、12本中2本。
- 打たれ方は巡目を問わない。期間Bの1巡目は、36打席で本塁打4本である。
本稿にできるのは、問題の所在の指摘までである。投球メカニクスや球種選択への助言は本稿の範囲外であり、今後の予測もしない。一つだけ言えることがある。フライの44.4%が本塁打になる状態は、リーグ全体の分布から見て明らかな外れ値だということである。これはリーグの分布についての事実であって、今永個人の今後についての予測ではない。
そのうえで3年を振り返れば、こうまとめられる。フライが多く、打者にボールの下を叩かせる投球の特徴は、3年間ほとんど変わっていない。その特徴のもとで、2024年はほとんど本塁打を許さず、防御率2.91で終えた。2025年には1巡目に集中して打たれ、2026年のこの4先発では、コースと打者の対応が変わるなかで、巡目を問わず打たれた。二度の自己分析は、どちらも口にした時点の数字を正確に映していた。その間も、フォーシームの投球割合は年ごとに下がり、今季はシンカーが加わって、球種構成は毎年変わってきた。投手が調整し、打者が対応する。そのせめぎ合いのなかで、直面する課題が移っていくのは自然なことである。変わらずにあるのはフライの傾向であり、いま問題がどこにあるかまでは、ここまでの数字で指し示すことができる。
追記
本稿の数字は、いずれも2026年6月8日の試合までの集計である。脱稿後の6月10日の登板(今季14試合目)では、19人の打者と対戦し、被本塁打0・奪三振7・四球2・単打2だった(レギュラーシーズン、独自集計)。