山本由伸(やまもと・よしのぶ)が投げる球のなかで、最高の球種はどれだろうか。真っ先にスプリットを思い浮かべる読者は多いかもしれない。直感的には「空振りを量産するから」と考えがちだが、実際は少し違う。まずは、2026年シーズンの途中経過(6月18日時点、13試合1264球)における山本の持ち球6つの全体像から見てみよう。
フォーシームは全体の28.2%を占め、平均球速は約154.5km/h(96.0マイル)、横変化量は-21.3cm、縦変化量(重力の影響を除いた、ボールが浮く/落ちる量)は41.4cmである。続いてスプリットが26.9%で、約147.1km/h(91.4マイル)、横変化量-30.7cm、縦変化量5.1cmで続く。このほか、カッター(13.7%、約146.9km/h)、カーブ(13.1%、約123.9km/h)、シンカー(11.8%、約153.4km/h)、スライダー(6.4%、約140.2km/h)を操る。
球種の分類は自動判定によるものだが、それぞれの球の動き(変化量)によって明確に分かれていることは確認済みだ。スライダーなど投球数の少ない球種は数値が変動しやすい点には留意されたい。
山本由伸の6つの球種(球の動きと球速)
バブルの大きさは投球割合(使用頻度)に比例
2026年シーズンの途中経過(6月18日時点、13試合1264球)であり、各数字は暫定値
横変化量のマイナスはアーム側(三塁側)、縦変化量のプラスはライド方向(上)。球種の分類は自動判定だが、球の動きで明確に分かれている
空振りは「中位」にすぎない
山本のスプリットの空振り率(スイングに対する空振りの割合、ブロックされた空振りを含む)は31.1%であり、フォーシーム(25.3%)を抑えて彼自身の球種のなかで最も高い。だが、比べる相手を全体の球種に広げると見方は変わる。独自に集計した全35種類のスプリットのなかで、山本の空振り率は19位であり、同球種の平均(31.6%)を下回っている。今永昇太(いまなが・しょうた)のスプリット(40.7%)や佐々木朗希(ささき・ろうき)のスプリット(33.6%)のほうが、空振り率では明確に上回っている。空振りを奪う能力だけを見れば、山本のスプリットは中位の球にすぎない。
強い打球を許さない
この球がずば抜けているのは、打球速度と打球角から見込まれる期待加重出塁率(xwOBA)において、強い打球を徹底して抑え込める点だ。
山本のスプリットの被xwOBAは.197であり、自身の球種のなかで最も低い(次点はシンカーの.228)。スプリットが最高の球と呼べるのは、この強い打球を徹底して抑え込める力があるためだ。失点増減(rv/100)という観点ではシンカー(-4.95)が最高で、スプリットは-1.06である。ただし失点増減は投球数が少ないため変動しやすい性質を持つ。
2026年シーズンに100球以上かつ50スイング以上を記録した1088球種(独自集計)を比べる相手とした場合、山本のスプリットは48位に入り、全体の上位約4%に位置する。全35種類のスプリットのなかでも4位という水準だ。山本より被xwOBAが低いスプリットは、ケイド・スミス(.157)、デビッド・ベッドナー(.173)、ホセ・ソリアーノ(.194)の3人のみであり、彼らは空振り率でも山本を上回っている。
2026年 全1088球種の被xwOBA(期待加重出塁率)
比較対象は公式のBaseball Savantではなく、独自に集計した「2026年・100球以上かつ50スイング以上」の1088球種(428投手)
変化球は直球よりも数字が良くなりやすいため、単純な横並びの比較には注意が必要
スプリット全35球種の中での位置
山本より被xwOBAが低いスプリットはケイド・スミス、デビッド・ベッドナー、ホセ・ソリアーノの3人のみで、彼らは空振り率でも山本を上回る
数字を評価する際にはいくつか留意が必要だ。全1088球種の中央値は.314だが、一般に変化球は直球よりも数字が良くなりやすいため、単純な横並びの比較には注意が必要だ。また、xwOBAは打球が発生した投球(または特定の非接触結果)のみで計算するため、ここでのスプリットの算出対象は97球である。シンカーとスプリットの差も厳密な優劣というより傾向を示すに留まる。
空振りと「強い打球を許さない」能力
山本のスプリットは空振り率こそ平均的だが、強い打球を徹底して抑え込む点において、全体の4位という際立った水準にある。先ほど空振り率で山本を上回る投手を挙げたが、空振り率と強い打球を抑える能力は別物である。
今永のスプリット(被xwOBA .234)は空振りを多く奪うが、被xwOBAでは山本(.197)のほうが優れている。佐々木のフォーク(同.239)も、空振り率で山本をわずかに上回る一方で、強い打球を抑え込む力では山本に及ばない。実際に全35種類のスプリットを見渡すと、被xwOBAのみで山本を上回り空振り率で下回る球は存在しない(0種類)。被xwOBAで山本を上回る3種類のスプリットは、すべて空振り率でも山本を上回っている。同球種で最上位に立つのはこの3つだ。一方で、空振り率だけで山本を上回るスプリットは15種類あるが、それらはいずれも強い打球を抑え込む力では山本に劣っている。残る16種類のスプリットは、空振り率と被xwOBAのどちらでも山本を下回っている。
空振り率と被xwOBA(強い打球を抑える能力)の比較
①メイソン・ミラー SL②ケイド・スミス FS③スクーバル CH④スキーンズ CH⑤今永 FS⑥佐々木 フォーク⑦大谷 スイーパー⑧ウィーラー FS⑨佐々木 FS⑩菅野 FS
比較対象は公式のBaseball Savantではなく、独自に集計した「2026年・100球以上かつ50スイング以上」の1088球種(428投手)
スミス、佐々木のフォーク、ウィーラーなどは投球数が少なくサンプルサイズが小さいため、数値が変動しやすい
もちろん、これは現時点での数字を整理したものであり、因果関係を示すものではない。スミス、佐々木のフォーク、ザック・ウィーラーなどのデータは投球数が少なくサンプルサイズが小さいため、数値が変動しやすいことにも留意されたい。
軌道が重なるという強み
山本のスプリットが強い打球を許さないのは、回転数(1458rpmで他球種より約800rpm少ない)などスプリット自体の動きだけで打者をねじ伏せているからではない。フォーシームと軌道を重ねることで活きているからだ。
両球種のリリースポイント(ボールを離す位置)の違いは約0.69cm(0.27インチ)、エクステンション(投球時に体が前へ伸びる距離)の違いは約1.0cm(0.4インチ)と、実質的に同じ位置から放たれている。球速差は約7.4km/h(4.6マイル)。球筋は途中まで完全に重なり、打者の手元で約37.6cm(14.8インチ)離れる(縦変化量の差36.3cm、横変化量の差9.4cm)。
軌道のイメージ図(物理シミュレーションではない)
打者の手元での変化量の差:約37.6cm(14.8インチ)
2026年シーズンの途中経過(6月18日時点、13試合1264球)であり、各数字は暫定値
曲線の形はイメージであり、物理シミュレーションではない。数値(リリース・球速差・変化量の差)のみが計測値
この軌道の重なりを背景に、山本はスプリットの直前にフォーシームを投げる割合が32.9%で最も多い。スプリットで奪う三振も全奪三振の35.0%を占め、これも全球種のなかで最多となっている。球種の組み合わせがこの結果を生んだとする因果関係やモデルを証明するものではないが、現状整理としてこの二つの球種が強く結びついていることは指摘できる。
良くなったわけではない
最後に、このスプリットが2024年から球質として良化したわけではないという点に触れておきたい。
2024年(通年)と2026年(途中経過)を比べると、スプリットの空振り率は36.5%から31.1%へと低下している。変わったのは球種配分で、フォーシームの使用割合が40.5%から28.2%へと減少し、スプリットの使用割合が24.2%から26.9%へと微増した。フォーシームの割合が減ったことで、結果としてスプリットの存在感が増しているというのが実態に近い。
スプリットとフォーシームの割合・空振り率の推移
変わっていないこと
- スプリットの球質そのものが良化したわけではない(空振り率はむしろ低下)
2024年(通年)→ 2026年(途中経過)の変化
2024年の通年(18試合)と2026年の途中経過(13試合)の比較であり、長期的な傾向を示すものではない
長期的な傾向を示すものではないが、フォーシームの割合が減ってスプリットの存在感が増したことだけは、データが静かに証明している。空振り率という一面だけで見れば目立たないかもしれない。しかし、フォーシームと同じリリースポイントから放たれ、打者の手元で沈み、強い打球を許さない。だからこそ、このスプリットは山本にとって最高の球種なのだ。