クローズアップ

スイングの幾何学

本塁打とゴロを分けるのは、スイングそのものよりも「どこに当たったか」というわずか1、2cmの差である。打球の回転と空振りはミート位置の縦ずれで決まり、打球角度もその縦ずれが大きく左右する。

バットがボールに当たったとき、本塁打になるか、ゴロになるか、それとも空振りになるかは、「バットの芯とボールの中心の上下のずれ(ミート位置の縦ずれ)」によるところが大きい。

回転の向き、そして当たるかどうかは、この縦ずれで決まる。打球の角度については、アタックアングル(スイングの角度)によって基準値こそ数度前後するものの、主にこの縦ずれが左右している。これはアラン・ネーサン博士の厳密な物理実験にも裏付けられている。ボールの半径は約3.7cm、バット芯の半径は約3.3cmと、的は非常に狭い。

ミート位置の縦ずれが打球の角度を決める

ボール(半径3.68cm)はバットの芯(半径3.30cm)よりわずかに大きく、ミートできる範囲は上下約6.9cmしかない。芯の上を叩けばゴロ、芯で捉えればライナー、芯の下を叩けばフライになる。

オーバーカット(ゴロ/トップスピン)スイング軌道(約+10度)投球の入射角(約10度)縦ずれ(E)打球-12度)トップスピン(沈む)芯(ライナー)スイング軌道(約+10度)投球の入射角(約10度)縦ずれ(E)打球+7度)ほぼ無回転アンダーカット(フライ/バックスピン)スイング軌道(約+10度)投球の入射角(約10度)縦ずれ(E)打球+30度)バックスピン(浮く)

回転方向は一般的な空気力学の法則に基づく図解であり、独自集計値ではない。

模式図(実測データではない)。ボールとバットの半径はほぼ実寸比(ボールがわずかに大きい)。投球の入射角・スイング軌道はいずれも約10度。

トップスピンで打球が沈み、バックスピンで打球が浮くのは一般的な空気力学の法則であり、独自集計値ではない。

図1:バットとボールの衝突の模式図。芯とボールの中心の「縦ずれ(E)」が打球角度を決める。芯の上を叩く(オーバーカット)とトップスピンがかかってゴロになり、芯で捉えるとライナー、芯の下を叩く(アンダーカット)とバックスピンがかかってフライになる。縦ずれが上下約6.9cmを超えると、バットはボールにかすりもせず空振りになる。出典:ネーサンの衝突モデル・独自図解。

芯のど真ん中で捉えたらどうなるだろうか。標準的なスイング(アタックアングル約10度)の場合、縦ずれゼロのボールはほぼ無回転のまま、約7.5度のライナーになるだけだ。芯で捉えたからといって、打球が高く上がるわけではない。

回転の向きはこの縦ずれによって決まり、打球角度を大きく変えるのもやはり縦ずれだ。中心より下を叩く(アンダーカット)とバックスピンがかかり浮き上がる。中心から約2cm下を叩くと本塁打に理想的な角度(約25度)が生まれ、そこから約1cm下へずれるごとに打球角度は約9度上がる。逆に、上を叩く(オーバーカット)とトップスピンがかかりゴロになる。

ミート位置の縦ずれが打球角度を決める:芯で約7.5度、約2cm下で本塁打

縦ずれゼロ(芯)でも打球はわずか約7.5度のライナーにとどまる。約1cm下を叩くごとに打球角度は約9度上がり、約2cm下(アンダーカット)でバレルが集中する本塁打の角度になる。

-6-4-20246-60-40-20020406080打球角度(度)ミート位置の縦ずれ(cm)バレルの中心(+2.0cm)本塁打になりやすい角度(25〜30度)標準のスイング空振りの限界線(上下約6.9cm)ゴロライナーフライ

曲線 打球角度 = 7.5 + arcsin(縦ずれ / 6.858cm)(縦ずれは下を叩くほどプラス)。

モデルによる推定であり、Statcastの実測値そのものではない(縦方向のみの計算)。基準となる「縦ずれゼロ」の打球角度約7.5度が確かな実測の基準。

図7:ミート位置の縦ずれ(横軸)と打球角度(縦軸)の関係。芯(縦ずれゼロ)でも約7.5度のライナーにとどまり、約2cm下(アンダーカット)でバレルが集中する本塁打の角度(25〜30度の網かけ)に達する。縦ずれが上下約6.9cmを超えると空振りになる。出典:ネーサンのモデル・独自集計。

バットがボールに届く範囲には限界がある。縦ずれが約±6.9cmを超えるとバットはボールに触れず空振りとなる。コンタクトの幅は極めて狭く、打球角度には、ボールのどこに当たったかという結果が大きく反映される。

こうした物理的な関係は、衝突シミュレーターで確かめられる。入射角、スイング軌道、タイミング、縦ずれを設定してみよう。どんな角度や回転が生まれるか、空振りになるかが直接読み取れるはずだ。

衝突シミュレーター:打球の行方を決める「数センチ」

スイングの軌道やタイミングがわずかに変わるだけで、打球はどう変化するだろうか。下のスライダーを動かして、実際に試してみてほしい。

6
10
+0 ミリ秒
振り遅れ早い
+0 cm
上を叩く(オーバーカット)芯(ジャストミート)下を叩く(アンダーカット)
ミート位置の縦ずれ
+0.0 cm
コンタクト判定
コンタクト
打球角度
7.8 度
回転
ほぼ無回転
打球速度目安
165 km/h(102 mph)
打球の種類
ライナー
目安
  • 【目安】 打球速度は、物理モデルから導いた概算の目安であり、実際の計測値ではない。
  • 【回転の向き】 ボールの下を叩けばバックスピンで浮き、上を叩けばトップスピンで沈むという、一般的な空気力学の法則を反映している。
  • 【縦方向のみのモデル】 現実のスイングには左右の奥行きもあるが、ここでは縦方向のみの動きに単純化している。そのため、実際の空振りはシミュレーターよりも少し多くなる。
  • 【打球角度の計算】 ミート位置から打球角度を導く計算には、一部で定義上の基準(「縦ずれゼロ」を約7.5度とする)を用いている。

ただし、このモデルはあくまで1球ごとの「コンタクトの幾何学」である。「なぜ特定の打者は空振りが多いのか」といった疑問に答えるものではない。対象は本塁打とゴロを分けるミート位置の違いである。

本塁打になるかゴロになるかは、スイングそのものよりも、むしろ「どこに当たったか」というわずか1、2cmの差で分かれる。芯ならライナー、下を叩けば飛び、上を叩けばゴロ。限界を超えれば空振りだ。本塁打には十分な打球速度も必要だが、その行方は数cmの縦ずれによるところが大きい。