ソニー・グレイとアレックス・ベシアのフォーシームを比べてみよう。グレイの回転数は2,501 rpm、対するベシアは2,468 rpmである。ほぼ同じ回転数だが、ボールがどれだけホップするかを示す「縦の伸び」を見ると、グレイが約27 cmなのに対し、ベシアは約53 cmに達する。同じ回転数なのに、全く違う軌道を描いているのだ。この例からも分かるように、フォーシームの縦の伸びにおいて、回転数そのものは決定的な指標ではない。
ここで前提を整理しておこう。本稿は2025年にフォーシームを50球以上投げた投手(集計対象となった593人)を対象としている。ここで扱う「縦の伸び」は直接観測した値ではなく、計測された軌道から推定した値である。「同じ球速で無回転だったら描いたはずの軌道」との差(重力を除いた誘導縦変化量=IVB)であり、無回転の場合の軌道は実際には観測できないため、あくまでモデルに基づく推定値だ。また、これから述べる分析は、それぞれの要素が結果をどう変えたかという因果関係を示すものではなく、事実の指摘にとどめ、あくまで現状整理として読まれたい。ただし、対象となった593人の投手のなかでは各要素を統計的に切り分けて把握できるため、それぞれの要素が全体の中でどの程度効いているか確かめることはできる。さらに、本稿で言及する「回転効率」は1球ごとの実測値ではなく、選手・シーズンの単位で算出されたSavantモデルの出力値(Active Spin %)である。
では、回転数と縦の伸びの関係を見ていこう。対象となる593人の数字を並べると、回転数だけで縦の伸びが決まる割合は約6%にすぎない。1球ごとのデータまで細かく見ても、その割合は約5%と同じである。回転数は縦の伸びを決める3つの要素の一つに過ぎず、単独では最も影響が小さい要素なのだ。
回転数・回転効率と、フォーシームの縦の伸び
回転数では縦の伸びは決まらない
r(回転数と縦の伸び)= +0.24
縦の伸びを左右するのは回転効率
r(回転効率と縦の伸び)= +0.42
回転効率(アクティブスピン %)
出典 2025年フォーシーム・n=593(規定ではなく50球以上)。
縦の伸びは、単なる足し算ではなく「回転数 × 回転効率 × 回転軸」の掛け算で決まる。回転数のみでは6%だが、そこに回転軸を加えると62%まで上がり、さらに回転効率も加えると81%に達する。これら3要素を掛け合わせれば、縦の伸びの違いの約84%に理由がつく。これは、各要素が単独で足し算のように効いているのではなく、掛け算として機能している証拠である。最も効いているのは回転軸であり、次に回転効率が続く。回転数単独ではほとんど影響を持たない。さらに、回転数を見ても回転効率は分からない。両者の相関係数は-0.29にとどまる。
冒頭で触れたグレイとベシアの例に戻ろう。回転数はほぼ同じ(33 rpm差)だが、縦の伸びには約26 cmの差がついている。この差は、回転効率の違いと連動している。グレイの回転効率が58%であるのに対し、ベシアは98%に達するのだ。アンドレ・パランテ(2,307 rpm、約25 cm、69%)とニック・ピベッタ(2,322 rpm、約50 cm、95%)や、トレバー・ウィリアムズ(2,221 rpm、約26 cm、62%)とジェレマイア・エストラーダ(2,196 rpm、約50 cm、99%)を比べても、同じ傾向が見て取れる。
なぜこのような掛け算になるのだろうか。ボールの進行方向を横切る向きの回転(アクティブスピン)だけが軌道を変え、進行方向に向いた回転(ジャイロ回転)は軌道を変えない。回転効率とは、全回転数のうちアクティブスピンが占める割合のことである。
このメカニズムを踏まえると、回転数が多いからといって縦の伸びが大きいとは限らないことが分かる。ブロック・スチュワート(2,616 rpm)、ソニー・グレイ(2,501 rpm)、マット・フェスタ(2,514 rpm)は、比べる相手(593人)のなかで回転数は上位にあるが、回転効率がそれぞれ73%、58%、60%と低いため、縦の伸びは約36 cm、約27 cm、約30 cmと小さい。 逆に、タイラー・アンダーソン(2,185 rpm)、リード・デトマーズ(2,165 rpm)、マイケル・ワカ(2,161 rpm)は回転数こそ控えめだが、極めて高い回転効率(いずれも99%)によって、それぞれ約49 cm、約46 cm、約46 cmという大きな縦の伸びを生んでいる。
ただし、重要な例外がある。回転効率は大きな要素だが、それだけで縦の伸びが決まるわけではない。アンドリュー・ヒーニーはその典型だ。彼は回転効率99.4%だが、縦の伸びは約32 cmにとどまる。回転軸が横を向いているからだ。回転効率は「ジャイロ回転として無駄になる回転がどれだけ少ないか」を示す数字であり、伸びがどの方向に向かうかは回転軸によって決まるからだ。
結論として、フォーシームにおいて、スピードガンと並んで表示される回転数そのものは、投手の能力を測る数字としては不十分だ。本当に見るべきなのは回転軸と回転効率である。